2011年10月9日日曜日

感情制御と不安障害

このブログ,気づけば1ヶ月も放置.夏休みだからボケーとしていた訳ではなく,色々と活動はしていました.

9月の前半は感情・パーソナリティ心理学会と友人の結婚式で京都に行き,後半は,認知療法学会で大阪に行き,その他には広島CBT勉強会にて気分・不安障害に対する診断横断的治療プロトコルの講演をしたり,論文書いたりと,博士課程らしき夏休みを過ごしたのではないかと.

次の学会は,東京で開催される行動療法学会です.それまでは2ヶ月弱あるので,また論文アップしたりと情報を発信していけたらと思います.

という訳で早速1本.今回の認知療法学会1日目でも話題になっていた「感情制御」と不安障害に関するレビュー論文.

Emotion Regulation and the Anxiety Disorders: An Integrative Review.
Cisler, J. M., Olatunji, B. O., Feldner, M. T., & Forsyth, J. P. (2010).
Journal of Psychopathology and Behavior Assessment, 32, 68-82.

主要なポイントをまとめると
①感情と感情制御は概念,行動,神経レベルで区別可能
②感情制御は,用いられる方略によって恐怖の増減が可能
③感情制御を不安症状を説明する増分妥当性あり (感情反応性を統制)

そして,以下のように恐怖条件付け後の恐怖のmanifestationの過程で感情制御は調整変数として作用し


以下のように,感情制御の柔軟性が欠けると不安障害の発生に繋がると.



以下レビューのメモ

■ 感情制御に含まれる行動(認知的なものも含む)
 再評価,気ぞらし,回避,逃避,抑制,情動・問題焦点コーピング,感情体験を増減する薬物の使用.

感情誘発刺激に直面する前にとる反応のトポグラフィー
・場面選択,場面変容,注意の配置,認知的変容(再評価)

感情誘発刺激に直面する後にとる反応のトポグラフィー
・抑制,受容

感情制御をするタイミングによって結果が異なる.
自動的に生起するものもあれば,能動的に行うものもある.


■ 恐怖/不安(感情)と感情制御の区別
恐怖/不安:危険の潜在的資源に対する防衛反応を指し,扁桃帯の活動と関連する生理,行動,認知的活動.

感情制御:感情体験を変化させようとすることを差し,PFCの活動と関連する特定の行動的,認知的方略

■ 感情制御方略は感情の主観的、生理的、行動的指標に影響を与える
認知的再評価:不快刺激に対する主観的不快情動,生理的反応性,驚愕反応を減じる

抑制:生理的反応性は減じるが,主観的不快情動には影響を与えない

※抑制の生理的反応性に対する効果は,他のリスクファクター(e.g., 不安感受性)を統制した場合に消失する場合もある.

※これらの研究では,即時的な効果しかみておらず,感情制御方略の習慣的な使用の効果が分からない (長期的効果が不明).

不快刺激の再評価はPFCと関連し,再評価中のACCの活性はネガティブ情動の減少と高い相関(r=.81),扁桃帯の活動の低さと関連.再評価中の扁桃帯の活性と左腹側PFCの活動に高い負の相関 (r=-.68).ネガティブな再評価は,PFCの活性と関連し扁桃帯の活性と関連.

※これらは相関研究なので,PFCが扁桃帯の活動を抑制するのか扁桃帯の活動がPFCに影響を与えるのか分からないが,動物実験ではPFC→扁桃帯という因果が示されてはいる.

※恐怖条件付けを用いたパラダイムでも,感情をCS刺激に対する感情制御中にPFCが活性し,CS刺激に対する扁桃帯の活性を減じることが示されている.→不安障害に対する適用可能性


■ 不安障害と感情制御の関連
GADとの関連

・感情制御困難性(DERS)に対するネガティブな反応性,感情に対する理解の困難性,不安に対する恐怖がGADを有意に予測(抑うつ・心配・不安症状やパニック症状は統制).

パニックとの関連
・過去一年間にパニック発作を経験した人の,身体感覚に対する恐怖が,体験の回避(AAQ),感情の非受容性,感情の不明確性を予測(他のパニック関連の指標は統制)

・不安感受性の高い人は,不安の覚醒と心配が感情的苦痛の受容が低い場合に高く,不安の覚醒と心配と広場恐怖的認知は,感情を調整する資源が乏しい場合に高くなる.

PTSDとの関連
・感情表出の抑制は,PTSD症状と関連.
・感情の受容性の欠如と,目標志向行動の実施困難性,効果的な感情制御方略へのアクセスの不足,感情の明確性がPTSD症状と関連 (不快情動傾向を統制しても).
・感情制御の困難性と対人関係の問題はPTSD症状に対して同程度の予測力を持つ.

OCDや単一の恐怖症
・不快情動・嫌悪傾向を統制すると,OCDや単一の恐怖症との直接的な関連は消失する
・しかし,感情の非受容性と感情制御へのアクセスの制限は不安感受性が不安的覚醒や心配,広場恐怖的認知に与える影響を調整
・社交不安と感情の表出抑制の交互作用が,快情動や快イベントの欠如を予測.

児童・青年期の不安障害
・不安のコントロール可能性に関する信念が児童の不安症状を予測 (不安感受性や認知の誤りを統制しても).
・不安のコントロール可能性の増大が,治療前後の不安症状の変化を予測(ネガティブな自動思考を統制しても)


※感情制御といっても,Acceptance & Action Questionnaireが用いられていたり,Difficulty in emotion regulation scaleが用いられていたり,Anxiety Control Questionnaireが用いられていたりと,幅がある.感情制御のどの要素がどの疾患と関連が深いのか今後明確にしていく必要あり.やはり,感情制御という概念の明確化が肝心.

これらの知見に基づいて,図のプロセスを想定.





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