2011年7月2日土曜日

幻聴の認知モデル

のレビュー

Reviewing evidence for the cognitive model of auditory hallucinations: The relationship between cognitive voice appraisals and distress during psychosis.
Mawson, A., Cohen, K., & Berry, K.
Clinical Psychology Review, 2010, 30, 248-258.

幻聴の認知モデル (Morrison & Haddock, 1997)
内的刺激により侵入思考生起→思考を外的に帰属→幻聴体験→幻聴に対する評価→感情・行動的反応→侵入思考の増大という悪循環を仮定
幻聴に対する認知的評価が,幻聴体験による感情・行動的反応の生起によって重要な役割を担う。

上のモデルを改訂する必要性も指摘されている。
→認知的評価の背景にスキーマやメタ認知的なバイアスが存在する。
→現在と過去の社会関係が効力や服従という点に基づくスキーマの形成に影響を与える
 (例えば,社会的関係の中で無力感を経験している人は,幻聴に対し自分は無力だと評価する。過去のトラウマ経験が幻聴の認知的評価と幻聴による苦痛の関係を媒介するなど)


幻聴に対する評価の種類ごとに,幻聴に対する評価と苦痛,抑うつ,不安の関連をレビュー

①malevolence:幻聴をネガティブ,邪悪,恐ろしいものとして評価
概して,幻聴に対するmalevolenceな評価の高さは,苦痛,抑うつ気分,不安の高さと関連。一つの研究のみ関連が見られなかったが,その研究ではmalevolenceな評価の測定方法が妥当でない可能性あり。
幻聴の頻度と疾患の持続期間を統制しても,malevolenceな評価は,幻聴による苦痛を有意に予測することを報告する研究もあるが,malevolenceな評価の測定方法の違いによって,結果が一貫していない。
介入研究では,概して苦痛の減少とmalevolenceな評価の減少に有意な関連なし。
それらの介入研究では,malevolenceな評価をターゲットとした介入が行われていなかった可能性がある(他の評価をターゲットにしていた)。malevolenceな評価が十分に改善されていなかったから,苦痛と関連が見られなかったのかも。

② Benevolence:幻聴をポジティブ,慈善的なものとして評価
概して,Benevolenceな評価の高さは,苦痛,不安,抑うつの低さと関連。
Benevolenceな評価と苦痛は関連なしと報告する研究もあるが,それらの研究ではBenevolenceな評価を測定する方法に問題あり (メタ認知を測っているものとか)。

③supremacy:幻聴を侵入的,支配的と評価
概して,supremacyな評価の高さは,苦痛,不安,抑うつの高さと関連。
supremacyな評価は,幻聴の持続期間,頻度,幻聴に対する行動的反応を統制しても,有意に幻聴による苦痛を予測。supremacyな評価をうける幻聴は,malevolenceな評価もうける。評者は関連しているが別概念と考えるのが妥当(supremacyな評価のみに介入をした場合に,malevolenceな評価は変容しなかった)。
supremacyな評価と苦痛の関係を社会的スキーマが媒介する。
しかし,介入研究では,概して,spremacyな評価の減少と苦痛,抑うつ,不安の減少に関連がない。

④ acquaintance:幻聴を個人的に重要なもの,自分のことを良く知っている知人のように評価
苦痛,不安,抑うつとの関連は研究間で一貫しておらず,研究数も少ない。そのため,関連があるともないとも言えない。

⑤ approval:幻聴を受容的に評価
幻聴にdisapprovalなほど,悲しみや心配が高く,approvalなほど抑うつが低い。(←spremacyなどの他の幻聴に対する評価を統制しても,有意に関連。)

研究の問題
30人以下の研究が多いので統計的な検出力に問題があるかも。
介入研究のデータは,ドロップアウト率の高さによって歪みがあるかも。
抑うつとの関連は,陰性症状との明確な区別がされてない研究が多い。


概して,相関研究では,幻聴の認知的評価と苦痛,抑うつ,不安に関連がみられるのに,介入研究では関連がみられない→社会的スキーマが媒介しているかも。












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