2011年7月3日日曜日

幻聴に対するコーピング

のレビュー

Coping with hallucinated voices in schizophrenia: A review of self-initiated strategies and therapeutic interventions
Farhall, J., Greenwood, K. M., & Jackson, H. J. (2007).
Clinical Psychology Review, 27, 476-493.

幻聴をもつ統合失調症患者は,幻聴に対して何かしら対処をしてる。患者が持つ対処法の数は2.2~18.8と研究によって大きく異なる。これは,聴取方法の違いによる可能性が大きい (open questionで聞いているものもあれば,prompt listを用いて聞いているものもある)。少なくとも,幻聴に苦しむ患者は2つ以上の対処行動を用いている。

幻聴への対処の測定方法の違いや用いられる対処の内容の多様性から,対処行動をまとめるのは難しいが,研究を概観すると以下3点の特徴がある。

①幻聴に対する対処方略は,認知・行動・生理的領域と広範に及ぶ行動が含まれる。②幻聴への対処の多くが,幻聴に特異的ではなく,統合失調症症状全般への対処である。③幻聴に対する対処の内容に文化差はない

患者が用いる幻聴への対処の効果
縦断的研究で検討したものはない。また,横断研究で得られたデータは,一貫してない (幻聴への対処に失敗している人にサンプルが偏っている可能性がある)。なので,どのような対処が幻聴に有効なのか一概にいえない。積極的な受容 (active acceptance)は幻聴のコントロール感の高さと関連。受動的な対処は苦痛の低さ,抵抗的な対処は苦痛の高さと関連。問題解決的対処は幻聴による苦痛の高さと関連。幻聴に対しては,抵抗するより受容するほうがいいのかも (でも,抵抗的な対処が苦痛の減少を予測するという研究もあり,結局どちらがいいともいえない)。幻聴への対処法を多くもっている方が苦痛が低い,あるいは高いかについても,研究結果が一貫していなく,何ともいえない。

コーピングの習得や幻聴の減少をターゲットにした実験的研究
①行動的手法:嫌悪条件づけ,思考中断法,気ぞらし。
1事例研究で,嫌悪条件付けは幻聴を減少。1事例研究で,思考中断法は幻聴の持続時間を,気ぞらしは幻聴の頻度を減少。統制研究では,思考中断法は幻覚を減らすが,幻聴には聴かない。これらの研究では,統制群の設定に問題があり,各技法の独自の効果が明確ではない (注意のシフトやセルフモニタリングという要素が含まれている可能性)。
②発話法:幻聴が聞こえた時に,鼻歌を唄う,数字を数えるなど
(幻聴体験時に,声帯が動いているという研究に基づく。なので,幻聴と関係なく声帯を動かせば幻聴が生起しないだろうというロジック)
サンプルの小さな研究で,幻聴の減少にやや効果あり。
③聴覚的競合法:幻聴が聞こえたときに,聴覚刺激を与える。
意味のある刺激(スピーチ)や馴染みのある刺激(好きな曲)がより幻聴の減少に有効。発話法よりも聴覚的競合法の法が患者にとって行いやすい。

コーピングレパートリーの増大に焦点を当てた介入
①レパートリーの拡大
②患者が現在使用している方略から有効な方略への変容
③患者が現在使用している方略に加え有効性が示されている方略を習得
④有効な対処方略に関する情報提供


(a) 幻聴への対処方略を系統的に教える介入
気ぞらしの訓練が最も用いられる。しかし,統制研究の結果からは有効性について結論づけられない。気ぞらし法 (幻聴から別な刺激に注意を切り替える)と焦点化法 (幻聴に注意を向ける)群は,どちらも幻聴の苦痛,頻度が減少。焦点化法群は自尊心向上,気ぞらし群は減少 (でも,フォローアップではどちらの群も低下)。
11個の行動的対処方略を系統的に紹介する集団プログラムでは,統制群と効果に差がなし。しかし,完全なデータが得られたのは各群 6名ずつと少ない。対処方略の有効性は患者によってまちまち。同様の集団プログラムは,統制群の設定がない研究では,幻聴を有意に減少 (ベースラインと比べて)。

(b)陽性症状へ対処を増大する介入:Coping strategy enhancement (CSE)
5週間10セッション。苦痛な症状の行動分析,優先症状の選択,患者が用いている対処方略の有効性の検討,様々な行動的技法を用いた対処行動の増大から構成。2つの事例研究で,幻聴を含む陽性症状が減少。しかし,幻聴に対する有効性は不明。問題解決法と比較した統制研究では,CSEと問題解決は幻覚の減少に有効だが,幻聴には効果なし。CSEと問題解決と再発予防を組み合わせた統合失調症への包括的CBTは,支持的療法よりも幻聴を改善。しかし,通常治療群と改善に差なし。

CSEは,陽性症状の改善に有効だが,幻聴に対する効果は不明(研究デザイン,測定指標の問題)

幻聴に特化したセラピー
①幻聴統合療法 (Hallucinations Integrated Therapy: HIT)
複合的な家族療法。20セッション。心理教育,薬の服用,CBT,対処法トレーニング,家族治療,リハビリ。対処法トレーニングは患者とその近しい人に行われ,不安管理,気ぞらし,要素への集中から構成される。それらはエクササイズとモニタリングによって行う。RCTでHITは幻聴や症状を有意に改善(統制群は通常治療群)。
②集団CBT
陽性症状の改善に有効だが (通常治療群と比べた場合),他のセラピーより優れているとはいえない。CBTの内容は多様で,幻聴への対処を含むものもあるが少ない。
③ACT
幻聴に対する回避を減じ,幻聴があっても価値に沿った行動を選択するウィリングネスを高める。ACT群は9ヶ月後のフォローアップ時の再入院率が減少。幻聴に対する確信度の減少(幻聴の苦痛や頻度は変わらず)。


結局,研究デザインや測定指標の問題で,明確な結論が出しにくいよう。統合失調症研究の難しさを物語っている。幻聴に対する受容的なスタンスが有効である可能性も指摘されているが,その危険性も指摘されているよう。

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